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2019.1.14    「豆腐のゆくえ」



こんにちは。

今日は 初めての試みで

小説のような エッセイのようなものを

載せたいとおもいます(^-^)

お時間のある方は

どうぞおつきあいください。

明日からまた水族館です。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆





「豆腐のゆくえ」






口元に付いていた2ミリ程の豆腐が

母の顔の上であちこちへ移動していく様を

私は先ほどから眺めている。



母は実家での父との暮らしに窒息しそうになると

電車で1時間揺られ、仙台の娘の私の所へ転がり込んでくる。

車窓から田園風景を眺めながら、何を思い巡らしてくるのだろう。

いい歳をした家出少女のような母は、今年で喜寿を迎え

最近よくつまずくようになった。

ニット帽、マスク、ダウンコートの完全防寒姿で

迎えの駅に降り立つ姿を見ると

おばあちゃんになったなぁとしみじみ思う。




そんな年を取った母の口元に、食事中何か付いているのは

たまにあることのひとつだったが、今回はいつもと勝手が違っていた。

「ちがうちがうーー、もう少し右」

「えーー? ここーー?」

母がしわしわの手の甲で、あごをぐるりと撫でると

右の口角に付いていた豆腐は、きれいな弧を描きながら

おもしろいように反対側の口元へ運ばれた。

そして取れたかどうか、じっと私の顔を見つめ返事を待っている。




そんな顔で見つめないで欲しい。

「あーーもう、ちょっとさぁ……」

私は堪えきれずに吹き出し、取ってあげようと手を伸ばしたが

(いいから大丈夫!)

と、虫でも払うかのような謎のジェスチャーをした母は、

また当てずっぽうに自分の顔を撫でくり始めた。

いったい何が大丈夫だというのだ。

年を取ると頑固になるというが、本当らしい。




この大丈夫でない状況を、どう伝えようか悩む。

「お母さん、さっきと反対側にいったよ、豆腐……」

「えっ! 豆腐が付いてるの?!」


そうです、まだあなたには伝えておりませんでした。


「そうだよ! 豆腐が付いてんの。今は左に」

「左って……どっち?」

向かって左だとか自分から見て左だとか

そういうややこしい説明をする必要が

これほど面倒と思ったのはここ最近ではない。



「あのさ、お母さん。一回さ、箸を置いて、ちゃんとぬぐってみたら?」

横着な母は、さっきから右手に箸を握ったまま

まるで猫が顔を洗うように顔を撫で回していた。

箸が目に刺さりそうで怖い。しかも左手には茶碗まで持っている。

これだから豆腐のカケラにまで馬鹿にされるのだろう。



箸を置いた母が、再び手のひらで頬を撫で始めた。

払い落とせばいいものを、ずいっと豆腐を頬の上に撫で上げる。

先ほどまで口元にあったその白い粒は、まるで意思があるかのように

つつーーっと目尻にまで足を伸ばし始めた。

その小さな視点から、母と、見ている私をからかっているようだ。

「ああーー……、お母さん」

「なっ、何!」




この人はなぜキレているのだろう。

一旦母は諦めたのか、手を止めて私を見た。

すると次第に母の表情に変化が表れ始めた。

疑っているのだ。

断っておくが、私は決して、にやにやしながら

母を見ていたわけではない。



娘の言う事を信じていいのだろうか。

本当に私の顔に、その豆腐とやらは付いているのか。

付いてもいない豆腐で私をからかっているのだろうか。

そう言いたげな目で、しげしげと私を見る。

付いているんだよ、お母さん。

こっちだってそんなに暇じゃない、

取ってあげようとしたのを忘れたのだろうか。

「今ね、左の目尻に付いてるよ……」

「目尻っ!?」




そんなに驚かないでほしい。

確かに今は食事中だし、食べ物がどうして食事と関係のない

目尻に付いているのか、とても不思議に思うのは当然の事だ。




(豆腐って、意外と粘着力があるんだな……)

私の頭の中は、中学生だった頃の夕食の記憶にとんでいた。

昔の薄暗い茶の間。テレビからは、地元のニュースが流れ

父、母、妹、私の四人が、こたつを囲み夕飯を食べていた。

ふと顔をあげると黙々と食べる母のこめかみに、米粒が付いている。

私は食卓に味噌汁を吹き出した。

そう、母には前科があったのだ。

「何やってんだ! 汚いなー」

父に怒られる私を、こめかみに米粒を付けた母が

台ふきんを渡しながら、一体どうしたのと言いたげな目で見ている。

そんな顔で見つめないで欲しい。

「おかっ、おかっ、おかーさんのここに、ごはん付いてる!」




ふと我に返ると、全く見当違いの場所をさすりながら

母はまだ豆腐のカケラと遊んでいた。

「お母さん、もういいよ、付けたままで……」

私は諦めて言った。たかが豆腐だ、害なんてありはしない。

「えー、ちゃんと取るから、とうふぅ。どこ? 目の下?」

そういうと母は、やけになって自分の顔を捏ねくりだした。

なんであたしの顔に! とにかく取れればいい。

目をつぶり、化粧水を撫でつけるように右に左にと顔を撫でると、

ある程度予想はしていたが、ワン、ツー、スリーで

豆腐は母の顔の上から、手品のように忽然と姿を消した。

まぁ姿を消したというより、どこかへ飛んで行ったのだ。




「あっ! なくなった!」

「あっそう!」

母はまるで長年の鬱積を晴らしたような

とても満足げな顔をしているが、

これは先ほどからたった5分程度の話である。

しかも悲しいかな、落ちたのは私の部屋のカーペットの上だ。

母はそれでいいだろうが、私には飛んでいって終わりの話ではない。



「あ~お母さん、なんだかもうおなかいっぱい!」

夕食を仕切り直すようにそう言って、再び母は箸を手に取った。





最後までお読み頂きありがとうございます。
よろしければ ご感想をきかせてくださると嬉しいです。
はじめての投稿なので
お手柔らかにおねがいしますね(#^.^#)

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これを掲載できるまでに
添削してくださったKさんに
心よりお礼を申し上げます。

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プロフィール

ぴよ社長

Author:ぴよ社長
宮城県仙台市在住。
宮城県・山形県への
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ちょっとしたお出かけを
勉強中の写真とともに
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